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マラソン界の英雄から検出、エリスロポエチンとは

2017年4月、ケニアの女子マラソン界の英雄である、ジェミマ・スムゴング(Jemima Sumgong)選手の検体から、赤血球を増やす「エリスロポエチン(EPO)」が検出されたという報道がありました。9月現在、処分はまだ確定していませんが、最大4年間の資格停止処分が科せられるようです。
同選手はケニア出身の女子マラソン選手として、初の金メダリストであっただけに、ケニア国民にとってこの報道はショックが大きかったようです。
今回はエリスロポエチンについて解説します。

■エリスロポエチンとは
エリスロポエチンとは、赤血球の元となる未熟な細胞(幹細胞)を、成熟した細胞(赤血球)に成長させるホルモンです。
エリスロポエチンを人に使用すると、体内の酸素濃度が増え、持久力が向上します。また、エリスロポエチンをそのまま使用し続けると、赤血球が過剰に増え血管が詰まり、「高血圧」状態になってしまいます。そして高血圧状態が続いてしまうと血管は耐え切れなくなり、「脳梗塞」や「心筋梗塞」といった重大な病気に繋がる可能性があります。
こういった背景から、WADA(世界アンチ・ドーピング機構)の公開する2017年禁止表国際基準の「S2. ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質」において、アスリートの使用が禁止されています。

■エリスロポエチンの生成を促す物質
エリスロポエチンの生成を促す物質に、HIF(低酸素誘導因子)という物質があります。
HIFは、体内の酸素濃度が減った時に、エリスロポエチンの生成を活発にし、また、たくさんの赤血球が血管を通れるよう、血管を強く綺麗な状態に整える物質です。
2017年禁止表国際基準では、HIFの量をコントロールする「HIF安定化薬」と、HIFの働きを活発にする「HIF活性化因子」の使用を禁止しています。

<HIF安定化薬>
「HIF安定化薬」である「コバルト(Cobalt)」や「バダデュスタット(Vadadustat)※1」は、HIFがHIF-PH(低酸素誘導性因子プロリル水酸化酵素)という酵素によって分解されるのを抑える物質で、HIFの体内量を維持するよう働きかけます。
コバルトはビタミンB12に含まれることで有名な物質ですが、ビタミンB12に含まれるコバルトについては、ドーピング禁止物質に指定しないとWADAは公表しています。そのためアカガイやハマグリ等、ビタミンB12を多く含むものを食べても、ドーピング違反になることはないでしょう。

<HIF活性化因子>
HIFの働きを活発にする「HIF活性化因子」には、「アルゴン(Argon)」と「キセノン(Xenon)」があります。
アルゴンとキセノンは大気中に存在する物質であり、分析機器に使用されることでも有名です。しかし、アルゴンやキセノンを持久力向上に用いても、有効性は低いと考えられており、むしろ麻痺等の副作用を引き起こしてしまう可能性の方が高いと言われています。

※1:慢性腎不全に伴う貧血に対し効果が期待される、2017年9月現在開発段階にある経口貧血治療薬。