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来年からはどう変わる?2018年禁止表国際基準

2017年9月29日、WADA(世界アンチ・ドーピング機構)より「2018年度禁止表国際基準」が発表されました。
今回は、昨年度の禁止リストと比べてどの点が変わったのかを解説していきます。

※原本はあくまで2018年禁止表国際基準であるため、当翻訳に由来する一切の責任は負いません。

 

■S1.蛋白同化薬の変更点

このセクションでは、ステロイドといわれる様な、筋肉を増強する「蛋白同化作用」をもつ物質の使用について禁止しています。

変更点1: ジヒドロテストステロンからアンドロスタノロンへの名称変更
国際一般名にそろえるため、アンドロスタノロン(androstanolone)へと名称が変更となりました。ただし、これらは同一物質であるため、名称が変更してもジヒドロテストステロン(dihydrotestosterone)の使用は禁止されます。

変更点2: LGD-4033、RAD140の追記
SARM(選択的アンドロゲン受容体調節薬)といわれる蛋白同化作用を持つ物質群の一例に、LGD-4033とRAD140が追記されました。
2017年春にはNBA選手が、LGD-4033が混入していたサプリメントを使用し、数試合の出場停止処分を科せられています。

 

■S2.ペプチドホルモン、成長因子、関連物質および模倣物質の変更点

このセクションでは、エリスロポエチンの様な赤血球を増やし持久力を向上させるホルモンや、骨や筋肉の成長を促す成長ホルモン等の使用を禁止しています。

変更点1: ARA290の削除
ARA290には、血管新生という血管を新しく作る作用があると考えられており、酸素循環を良くする可能性があるとして、2017年までは使用が禁止されていましたが、十分な根拠がないとして2018年から削除されることとなりました。

変更点2: デスロレリン、ゴセレリン、ナファレリン、トリプトレリンの追記
蛋白同化作用を持つ様なホルモンの生成を促す作用を持つ物質(CG(絨毛性ゴナドトロピン)やLH(黄体形成ホルモン)等)の一例に、デスロレリン(deslorelin)、ゴセレリン(goserelin)、ナファレリン(nafarelin)、トリプトレリン(triptorelin)が追記されました。

変更点3: 成長ホルモン類似物質、成長ホルモンの生成を促す物質の追記
成長ホルモン類似物質である成長ホルモンフラグメント(Growth Hormone fragments)の一例として、AOD-9604とhGH 176-191が、成長ホルモンの生成を促す物質の一例として、タビモレリン(tabimorelin)、CJC-1293、GHRP-1、 GHRP-3、 GHRP-4、 GHRP-5が追記されました。

変更点4: チモシン-β4およびその誘導体の追記
チモシン-β4(thymosin-β4)およびその誘導体(TB-500)は、血管新生という血管を新しく作り出し、酸素循環を良くする作用があるとして、2018年より禁止されることとなりました。

 

■S3.ベータ2作用薬の変更点

このセクションでは、ベータ2作用薬といわれる、主に喘息の治療等に使われる、気管支を拡げ呼吸を楽にする作用を持つ物質の使用を禁止しています。

変更点1: ツロブテロールの追記
咳が出るような風邪を引いた時等に、医師から処方されることでも有名なツロブテロール(tulobuterol)。2014年には日本人選手の使用が発覚したことで有名にもなりましたが、2018年から、ようやく禁止表国際基準に明記されることとなりました。

 

■S4.ホルモン調節薬および代謝調節薬の変更点

このセクションではインスリン等、代謝をコントロールするような物質の使用を禁止しています。

変更点1: SR009の追記
AMPK(AMP 活性化プロテインキナーゼ)活性化薬として知られるSR009。AMPKという酵素の働きを活発にすることで、脂肪燃焼やエネルギー産生を向上するため、2018年より禁止されることとなりました。

変更点2: GW501516の追記
PPARδ(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体δ)という器官に働きかけることで、脂肪燃焼、エネルギー産生を向上するPPARδ作用薬。その一例として、GW501516、2-(2-methyl-4-((4-methyl-2-(4-(trifluoromethyl)phenyl)thiazol-5-yl)methylthio)phenoxy) acetic acid)が追記されました。

 

■S5.利尿薬および隠蔽薬の変更点

このセクションでは、尿の排泄速度を高め、ドーピング禁止物質を体内から排除する働きがある様な利尿薬についての使用を禁止しています。

変更点1: グリセロールの削除
2017年まで、グリセロール(glycerol)は利尿作用があるとして、静脈注射による使用が禁止されてきましたが、2012年以降の科学論文の情報を考慮した結果、影響が最小限であるとみなされ、2018年から削除されることとなりました。

 

■M2.化学的および物理的操作の変更点

このセクションでは、静脈内注射についてどこまでがドーピング違反になるのかを明記しています。

変更点1: 静脈内注射の許容量およびタイミングの変更
2017年までは、静脈内注射の許容量およびタイミングが、6時間あたり50mL以下の注入までしか許可されていませんでしたが、治療の柔軟性を拡げるため、2018年からは12時間あたり100mLへと変更となりました。

 

■M3.遺伝子ドーピングの変更点

このセクションでは、遺伝子ドーピングがドーピング違反になることを明記しています。

変更点1: 新規遺伝子操作技術の追記
2017年までも、遺伝子操作をされた細胞の使用等を禁止してきましたが、2018年からは新たに「ゲノム配列および/または遺伝子発現の転写または後天的調節を改変するように設計された遺伝子の導入」といった行為を禁止することとしました。

 

■S6.興奮薬の変更点

このセクションでは、テンションを上げプレッシャーから解放してくれるような興奮作用を持つ物質の使用を禁止しています。

変更点1: 1,3-ジメチルアミンの追記
1,3-ジメチルアミン(1,3-dimethylbutylamine)は、2017年8月アメリカのボブスレーの選手が使用していたサプリメントから検出される等、サプリメントに混入する可能性が高い物質であるとして追記されました。

 

■S9.糖質コルチコイドの変更点

このセクションでは、医療現場においてステロイドといわれる様な物質について使用を禁止しています。ただし、糖質コルチコイドは経口投与、静脈内投与、筋肉内使用、経直腸使用でなければ禁止されません。

変更点1: 禁止物質の明記
2017年までは物質の明記がなされていませんでしたが、2018年からは一例として、ベタメタゾン(betamethasone)、ブデソニド(budesonide)、コルチゾン(cortisone)、デフラザコート(deflazacort)、デキサメサゾン(dexamethasone)、フルチカゾン(fluticasone)、ヒドロコルチゾン(hydrocortisone)、メチルプレドニゾロン(methylprednisolone)、プレドニゾロン(prednisolone)、プレドニゾン(prednisone)、トリアムシノロン(triamcinolone)が明記されることとなりました。

 

■P1.アルコールの変更点

このセクションでは、特定の競技においてアルコールの使用を禁止していましたが、2018年よりアルコールの使用を禁止表国際基準からは削除し、各競技団体に基準、処罰を委ねることとしました。
そのため、2018年から特定競技において禁止されるのは、ベータ遮断薬のみとなります。

 

■監視プログラムの変更点

監視プログラムとは、現在は違反にならないものの、多くの人が使用していること等が判明した場合に、ドーピング禁止物質として指定される可能性がある予備軍のことです。

変更点1:  ミトラギニンとテルミサルタンの削除
様々な科学論文の情報を考慮した結果、麻薬に指定されていたミトラギニン(mitragynine)と、PPARδ作用があると考えれ、代謝調節薬に指定されていたテルミサルタン(telmisartan)が監視プログラムから削除されました。

変更点2: ヒドロコドン、ベミチルの追記
2018年より、ヒドロコドン(hydrocodone) が麻薬として監視プログラムに、またベミチル(bemitil)(別名;2-エチルスルファニル-1-H-ベンゾイミダゾール(2-ethylsulfanyl-1H-benzimidazole)には代謝調節作用があるとして、監視プログラムに追記されました。