コラム

ドーピングニュース

滋養強壮薬にはご注意を

禁止薬物の入ったいわゆる“精力剤”を服用し、1年間の出場停止処分を言い渡されていたアメリカの総合格闘技(MMA)界のスター選手、ジョン・ジョーンズ氏。2016年11月9日、暫定で保有しているUFC(Ultimate Fighting Championship)ライトヘビー級のタイトルを剥奪されたと報道されました。彼は今年の6月のドーピング検査時も、体内のテストステロン値(性ホルモン値)を上げるクロミフェンとレトロゾールに陽性反応が出ており、ネバダ州立体育委員会から出場停止処分を科されていたそうです。

■滋養強壮薬はなぜ注意が必要なのか

一般的にいう“精力剤”ですが、そもそもそういった名称はなく、滋養強壮薬というのが正式な名称です。滋養強壮薬の一部には、テストステロンなどの蛋白同化薬や蛋白同化薬の類似作用を持つ生薬、興奮薬として禁止されるストリキニーネが含まれているものがあるため、使用するには注意が必要です。

<蛋白同化薬について>
蛋白同化薬は男性ホルモンの一種で、蛋白同化作用、いわゆる筋肉増強作用がある物質です。そのため、摂取することで筋肉量が増強し、結果的に運動能力が向上するのです。一方、副作用として肝臓などに大きな負担を与えるとも言われています。

<蛋白同化薬の類似作用を持つ生薬について>
カイクジン(海狗腎)、ジャコウ(麝香)、ロクジョウ(鹿茸)といわれる動物由来の生薬も、蛋白同化薬の類似作用を起こすため、摂取が禁止されています。これらの生薬は動物の睾丸、雄の角を由来とするため、男性ホルモンが多く含まれています。

<興奮薬(ストリキニーネ)について>
興奮薬の一つであるストリキニーネはホミカという植物に含有される物質です。脳に作用することで嗅覚等を敏感にし、興奮作用を起こします。また、脊髄の反射反応を利用することでも興奮作用を起こすとされています。人は興奮作用が強く現れると疲れをあまり感じなくなるといいます。そのため、体が疲れていたり、怪我をしていたりしても気づかないまま競技を続けてしまう恐れがあるのです。

参考:p.28、4.2)滋養強壮薬に注意
http://www.nichiyaku.or.jp/action/wp-content/uploads/2016/07/guidebook_web2016_1.pdf

ジョン・ジョーンズ氏の場合、どの成分が原因でドーピング陽性反応になったのかは公表されていませんが、滋養強壮薬が原因となると、上記の物質のいずれかが含まれていたと考えられます。これは海外の製品に限った話でなく、日本でも起こり得る話なので、使用は控えた方が良いでしょう。

■クロミフェンとレトロゾールについて

では、最後に今年の6月に陽性反応が出たクロミフェンとレトロゾールについても簡単に解説しておきます。

<クロミフェン>
クロミフェンは主に排卵誘発剤として女性の不妊治療に使用されることが多い物質で、体内のテストステロン(男性ホルモン)などの性ホルモン量のコントロールと深い関わり合いがあるものです。性ホルモンは主に、「間脳」といわれるメーカーと「精巣、卵巣」といった工場、メール的な役割を果たすホルモン「ゴナドトロピン」の三者で体内量をコントロールしています。
メーカーである「間脳」が性ホルモンの量が少ないと感じると「ゴナドトロピン」をたくさんつくり、工場である「精巣、卵巣」に送ります。この「ゴナドトロピン」が「精巣、卵巣」に届くと、届いた分だけ性ホルモンを作ります。
一方、性ホルモンを作り過ぎてしまった場合は、作り過ぎたとメーカーである「間脳」が感じ、「ゴナドトロピン」を送る量を減らします。すなわち「間脳」が体内のホルモン量を感知し、「ゴナドトロピン」の産生量を調節することで、「精巣、卵巣」の性ホルモンの産生量をコントロールしているのです。クロミフェンは間脳に対して「体内の性ホルモン量が足りない」と働きかける作用があるため、性ホルモンの増加につながります。
 

<レトロゾール>
レトロゾールは女性ホルモンの過剰が原因とされる病気の治療に使用されている物質です。女性ホルモンは卵巣だけでなく、脂肪細胞でも作られることが知られており、特に閉経後の主たる女性ホルモン産生場所は、卵巣ではなく脂肪細胞です。女性ホルモンは、「アロマターゼ」といわれる男性ホルモンを女性ホルモンに変える酵素の働きにより、産生されます。この男性ホルモンから女性ホルモンに変換する酵素「アロマターゼ」を阻害できるのがレトロゾールなのです。レトロゾールを使用することで男性ホルモンの産生が活発になります。