コラム

ドーピングの基本

アスリートからドーピング違反の連絡を受けた時の対処方法とは

「8%」。
この数字は、2018年12月に開催された「サプリメントのアンチ・ドーピング認証/2018年健康食品行政の動向」にて明らかになった、国産サプリメントからドーピング禁止物質が検出された割合です。
海外の分析機関が国内メーカーのサプリメントを100件分析したところ、8件から興奮薬や利尿薬が検出されたとのことでした。今まで国産サプリメントは安全性が高いとされてきましたが、国産だから安全とは言い切れないことが判明したのです。
(参照:ウェルネスニュースグループ「サプリメントのアンチ・ドーピング認証/2018年健康食品行政の動向」)


いま国内では、東京五輪などの国際大会に向け、2018年10月に「スポーツにおけるドーピングの防止活動の推進に関する法律」が施行され、また2019年春にはドーピングの新組織である「日本スポーツフェアネス推進機構」が設立されるなど、ますますドーピングを取り締まる動きが強まってきています。
つまり日本のアスリートは今、ドーピング違反で取り締まられる可能性が高まってきている状況なのです。今回は、アスリートからメーカーにドーピング違反の連絡が入った際の対処方法について解説します。

禁止物質が検出されたらすぐに資格停止?処罰決定までの流れ

アスリートからドーピング禁止物質が検出されると、すぐに資格停止になるわけではなく、3~4の段階を経て、最終的な処罰が下されます。

1 : JADAから分析報告と暫定的な処罰に関する書面が届く
ドーピング禁止物質がドーピング検査で採取したサンプルのA検体から検出された場合、分析報告と暫定的な処罰に関する書面がアスリートの元に届きます。ただし、陰性であった場合は、JADA(日本アンチ・ドーピング機構)から何も書面は届きません。

2 : B検体について再分析の要求ができる
A検体で検出された成分に身に覚えがない場合などは、B検体の再分析を要求することができます。望めば、再検査の現場に立ち会うことも可能です。ここでB検体の結果が陰性であった場合、処罰が下されることはありません。

3 : 聴聞会の開催のち、処罰が決定
B検体の結果がA検体と同じく要請であった場合、またB検体の再分析の要求をしなかった場合は、JADAからの通達があってから通常14営業日以内に聴聞会が開かれます。医師や弁護士などからなる委員が、アスリートとJADA両者の主張や意見を聞き、処罰を決定します。

4 : 処罰に納得がいかない場合、JSAA/CASに不服申し立ての要求ができる
聴聞会での処罰に納得がいかない場合には、21日以内であれば不服申し立てを要求することができ、処罰の見直しを行うことができます。国内での事例については「JSAA(公益財団法人日本スポーツ仲裁機構)」が、海外での事例については、カナダにある「CAS(スポーツ仲裁裁判所)」が申し出先となります。

(詳細についてはJADA(日本アンチ・ドーピング機構)のアスリートサイト「違反が疑われた場合の手続き 」を参照ください。)

ポイントは、アスリートは聴聞会において使用した医薬品や、サプリメント、食事などの記録の提出が求められるということです。
例えば医薬品が原因であることが判明し、日頃から医師や薬剤師に相談をし、ドーピングに関し気を付けていたという主張と、提出した記録の整合性が取れた場合には、意図的ではないことが証明され、処罰が軽減されることがあるのです。 もしもの時に備え、アスリートはお薬手帳やスマートフォンのメモ機能を活用するなどして、使用した医薬品やサプリメントなどの記録は手元に残しておくようにしましょう。

メーカーにはどういった問い合わせが?

アスリートからメーカーに来る問い合わせのケースとして「分析していなかった製造LOTからドーピング禁止物質が検出され違反になった」、「他社の製品がきっかけで違反になった」など、無数のケースが想定されます。
今回は「メーカーから製品の提供を受けているアスリートが、身に覚えのないドーピング禁止物質が検出され違反となり、またB検体の再検査の結果も陽性反応が出ている」ケースについて言及します。
今回のケースでアスリートから連絡が入るタイミングは「1 : JADAから暫定的な処罰のお知らせが来た時」、「3 : 聴聞会、or 4 : 不服申し立ての時」の2場面です。

[JADAから暫定的な処罰のお知らせがアスリートのもとに届いた時]
アスリートからメーカーに対しては、電話などで結果の報告と合わせ、製品の安全性について確認がされます。この時書面の提出は求められませんが、根拠をもって回答をしないと後々訴えられる可能性に繋がります。

[聴聞会、or 不服申し立ての時]
アスリートは処分の軽減をするために書類提出が求められるため、メーカーは製品の安全性に関する書面の提出が求められます。サプリメントの分析結果報告書や、生産工場のGMP、各原材料規格書などが提出書類に該当します。
また聴聞会や不服申し立ては、基本的に裁判のようなものです。提出した書類に後々齟齬が発覚すると、アスリートから訴えられる可能性に繋がるため、齟齬をなくす目的などで弁護士を雇う必要性があります。
その他にもアスリートから検出された成分についての調査も必要となるため、スポーツファーマシストをはじめとするドーピングの専門家に相談する必要も出てくることが想定されます。

質問に対する回答が曖昧だと、メーカーは被害を受ける可能性が高まる

アスリートからの質問に対する回答が曖昧であったり、書類の提出が遅れたり、また分析などの対策をしていないようなメーカーであったりすると、メーカーは被害を受けることが想定されます。
直接的な例ではありませんが、2018年の平昌オリンピックの際に、初のドーピング違反となった齋藤選手の例があります。齋藤選手は検出された成分に全く身に覚えがなかったのか、当時使用していた「米国製の使い捨てコンタクトレンズの保存液が鼻に入ったことが原因ではないか」と主張しました。
ドーピングに対する特別な対策をしていなかった各コンタクトレンズメーカーは、対応に追われ、混入に関するコメントを発表することとなりました。
素早い対応であったため、あまり大きな被害はなかったようですが、コメントを発表してから一年経った今でも、一部のアスリートから、コンタクトレンズの安全性に関する確認を受けるような状況は続いてしまっています。
(参照:一般社団法人日本コンタクトレンズ協会のリリース内容について

一説によるとアスリートがCASに不服申し立てを行うと、通訳代などを含めると数千万の費用が掛かるといわれています。仮にメーカーの製品が原因で違反になった場合、通訳代を含めた不服申し立て代だけではなく、資格停止期間中のアスリートの給料も支払わなければならなくなります。それだけではなく、アスリートを広告塔として利用していたその他のメーカーからも訴えられる可能性もでてきます。
アスリートからメーカーにドーピング違反の連絡が入る可能性が高まってきているいま、まずはドーピング対策について、専門家に相談してみることをお勧めします。

関連記事:ドーピング検査のボランティアスタッフに聞く、ドーピング検査のHOW TO! 

関連記事:スポーツサプリメントを選ぶ時の注意点