コラム

ドーピングの基本

ベータ遮断薬がドーピングになる競技とは?

WADA(世界アンチ・ドーピング機構)が発行しているドーピング禁止リスト (禁止表国際基準)には、特定競技で禁止される物質として「ベータ遮断薬」という項目があります。今回はなぜベータ遮断薬がドーピングにおいて禁止されているのかを解説していきます。

ベータ遮断薬とは

ベータ遮断薬は、通常、心臓の負担を減らす作用を持つもので、血圧を下げることを目的に、高血圧の治療に使用されている薬です。ベータ遮断薬の作用の一つに、手などの筋肉の震えを抑える作用があります。この作用が特定の競技において、ドーピングとして禁止される理由です。一方、ベータ遮断薬を使用すると心不全や、気管支喘息を引き起こす危険性があることも覚えておきましょう。

何の競技が禁止されている?

ベータ遮断薬の使用が禁止されている特定の競技は以下です。

・アーチェリー(国際アーチェリー連盟/WA)
※競技会外においても禁止

・自動車(国際自動車連盟/FIA)

・ビリヤード(全ての種目)(世界ビリヤード・スポーツ連合/WCBS)

・ダーツ(世界ダーツ連盟/WDF)

・ゴルフ(国際ゴルフ連盟/IGF)

・射撃(国際射撃連盟/ISSF、国際パラリンピック委員会/IPC)
※競技会外においても禁止

・スキー/スノーボード(国際スキー連盟/FIS)-ジャンプ、フリースタイル(エアリアル/ハーフパイプ)、スノーボード(ハーフパイプ/ビッグエアー)

・水中スポーツ(世界水中連盟/CMAS)コンスタント-ウェイト アプネア(フィンありフィンなし)、ダイナミックアプネア(フィンありフィンなし)、フリーイマージョン アプネア、ジャンプ ブルー アプネア、 スピアフィッシング、スタティック アプネア、ターゲットシューティングおよびバリアブル ウェイト アプネア

上記の競技のように集中力が特に必要とされている競技では、ベータ遮断薬の使用は禁止されています。特に、アーチェリーや射撃では、ベータ遮断薬の作用により、緊張状態の手の震えを抑えることで競技を有利に進めてしまうことになりかねません。

ベータ遮断薬による陽性事例

USADA(アメリカ・アンチ・ドーピング機構)によると、2003年12月5日にアーチェリーの選手であるチャック・リア(Chuck Lear)選手から、メトプロロール(metoprolol)が検出されたという報道がありました。検出された原因は、リア選手が心臓病の治療のために2年間服用していた薬です。同選手は、2003年7月31日に開催されたNAA(国立アーチェリー協会)主催の試合の競技成績について、失効処分となりました。
【出典】チャック・リア選手陽性事例(USADA)

特殊な薬ほどドーピングに注意

ベータ遮断薬は、特定の競技で検出されるとドーピングになる特殊な薬です。ベータ遮断薬によるドーピングの陽性事例は他の禁止物質と比較すると世界的にも少ないです。興奮薬やステロイドといった薬はドーピング陽性事例としては有名ですが、ベータ遮断薬のような陽性事例の少ない薬ほどドーピングの対策をしていく上で盲点になるため、注意する必要があります。特に、ベータ遮断薬が禁止されている競技に該当する選手は、他の競技の選手が使用していた薬だから大丈夫だろうと安易な気持ちで薬を摂取するのは馬鹿げた行為です。ベータ遮断薬は、特定の禁止物質に該当するので医療関係者に自分が何の競技の選手なのかもしっかり伝えましょう。ドーピングについて不安なことがあれば、薬を使用する前に専門家に相談することをお勧めします。

【参考文献】
薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック2018
検出された薬物の推移(株式会社 LSIメディエンス)