コラム

ドーピングの基本

血液や血液成分の操作もドーピング違反。具体的な方法とは?

ドーピングの禁止方法はいくつかありますが、血液によるドーピングや血液操作も禁止されたドーピング方法の一つです。なぜ血液や血液操作によるドーピングが禁止されているのでしょうか?血液を利用したドーピング方法とともに解説していきます。

血液や血液成分の操作はドーピング違反になる

WADA(世界アンチ・ドーピング機構)が発行し、JADA(日本アンチ・ドーピング機構)が日本語訳をしている禁止表国際基準をみると、血液や血液操作によるドーピングについては以下のように記載されています。

<M1.血液および血液成分の操作>
以下の事項が禁止される:
1.自己血、他者血(同種血)、異種血又はすべての赤血球製剤をいかなる量でも循環系へ投与するあるいは再び戻すこと。
2.酸素摂取や酸素運搬、酸素供給を人為的に促進すること[過フルオロ化合物;エファ プロキシラール(RSR13)、修飾ヘモグロビン製剤(ヘモグロビンを基にした血液代替物質、ヘモグロビンのマイクロカプセル製剤等)が含まれるが、これらに限定するものではない]。但し、吸入による酸素自体の補給は除く。
3.血液あるいは血液成分を物理的あるいは化学的手段を用いて血管内操作すること
引用:2019年禁止表国際基準(JADA) より抜粋

上記を見ると、「輸血」「人為的な酸素供給」「科学的手段を用いた血管内操作」の3点による血液や血液の操作によるドーピングを禁止していることがわかります。血液や血液操作によるドーピングは、血液中の赤血球を増やすことが目的とされています。血液中に赤血球が多くなると酸素の運搬能力が高くなり、疲れにくい状態になります。そのため、特に持久力が試されるマラソンなどの競技において血液操作によるドーピングが行われるケースが目立ちます。それではここで「輸血」「人為的な酸素供給」「科学的手段を用いた血管内操作」がそれぞれどんな方法で行われるのか説明していきます。

輸血:輸血の中でも「自己血輸血」「他者血輸血」の2つの方法があります。

【自己血輸血】
自己血輸血は自身の身体から一度血液を抜き、保管し、体のバランス調整反応として血液が元の状態になったところで、保管していた血液を体内に入れる方法です。血液全てを戻す場合もあれば、赤血球のみ取り出して体内に戻す方法もあります。体内に血液を戻すと血液(赤血球)が通常よりも多い状態になるため、酸素の運搬能力が高くなり、普段よりも疲れにくい状態になります。

【他者血輸血】
自己血輸血と同様の方法です。ただし、文字の示すごとく、他者の血液を利用するものです。他者というのは人間(=同種)の場合もあれば、牛や豚などの動物(=異種)の場合もあります。人間の場合は、医療用の濃厚赤血球を利用します。異種の場合は、現時点において実際の利用例は確認されていません。ただ、研究はされていることから、予防的意味で使用禁止としています。

人為的な酸素供給:血液に直接的に酸素供給をするような行為です。例えば、まだ研究段階ではありますが、人工赤血球を作り、体内に入れるような方法が挙げられます。(参照:奈良医科大学 酒井研究室「人工赤血球(人工酸素運搬体)の創製と臨床応用」
なお、靭帯損傷や骨折、疲労回復時に利用する酸素カプセルによる酸素補給はドーピング行為ではありません。誤解する方が意外に多いので、しっかりと覚えておいてください。

科学的手段を用いた血管内操作:
例えば、体内にナノマシン(薬剤などを入れた超微細なカプセル)などを用いた手段による血管内操作が想定されます。人為的な酸素供給と同様、研究段階の手段と言えますがドーピングにおいては禁止された手段の一つです。

輸血や血液操作のドーピング違反例

2007年から2018年の日本国内のドーピング違反事例においては、輸血や血液操作によるドーピング違反は確認されていません。
一方、USADA(米国アンチ・ドーピング機構)のwebサイトを見てみると、2018年3月8日に総合格闘技のモルドバ出身Cutelaba Ion選手が、輸血(blood transfusions)で6ヶ月の停止処分が課せられています。
また、2013年8月15日には自転車競技のドイツ出身Klier Andreas選手が禁止薬物の摂取、EPO製剤の利用、輸血などの理由(EPO, hGH, Cortisone, Blood Tranfusions)で6ヶ月の停止処分が課せられ、記録も抹消される処分となっています。
(参照:USADA(米国アンチ・ドーピング機構)違反事例一覧

血液操作によるドーピングは、感染症のリスクも伴うため、非常に危険な行為です。そして輸血や血液操作によるドーピングを行う本人はもちろんですが、手伝った人もアンチ・ドーピング規則8条「アスリートに対して禁止物質・禁止方法を使用または使用を企てること」に違反したこととなり、罰則の対象となります。安易な行動でドーピング違反になることのないように、そして健康被害に合わないようにするためにも正しい知識を持つよう心がけてください。