コラム

ドーピングの基本

鉄剤はドーピング!?不適切な鉄剤注射の使用は危険!

2018年12月10日、高校駅伝強豪校の一部で鉄剤注射の不適切な使用が報道されたことは記憶に新しいかと思います。使用の原因は指導者の指示と報道されており、事実上のドーピング行為と言われています。なお、日本陸上競技連盟は、今後は鉄剤注射根絶に向けて対策をしていくことを公表しています。(日本陸上競技連盟会見記事)

鉄剤は、ドーピングになるのか?
そもそも鉄剤自体は、ドーピングの禁止物質ではありません。しかし、今回報道されたような鉄剤注射の使用はヘモグロビンを増やし、持久力を高める効果が期待されるため、事実上のドーピング行為だと非難されています。

鉄剤注射の使用状況
日本陸上競技連盟によると、1132人の陸上をしている中学生アスリートを対象にしたアンケート調査の結果、鉄剤注射の使用率が全体の2.2%であることがわかりました。中・長距離選手に絞ると3.1%と増加傾向にあります。一般的には、鉄剤注射の使用は重度の貧血の治療時に用いられるため、中・長距離選手は鉄剤注射の不正使用による横行の可能性が高いことが考えられます。(陸上競技ジュニア選手のスポーツ外傷・障害調査)

アスリートの反応は?
リオデジャネイロ五輪女子マラソン日本代表の田中智美選手は、SNSで以下のように鉄剤注射の不正使用に関する記事について投稿しています。
「将来まだまだ伸びる可能性を潰さないで欲しい。私の高校3000mのベストタイムは10’27(現:9’25)。5000mは18分台(現:15’41)。それでも夢だったオリンピック選手になれた。高校、大学、実業団と徐々に徐々に地道にタイムが伸びる喜びと共に成長できた。」(田中智美選手投稿文(本人Twitter12/9))
鉄剤の不適切な使用は、正常な身体を壊していることと同じなので将来有望な選手の可能性を潰してしまうことにもつながります。田中選手のように高校時代は無名でも地道に練習をすれば日本代表として活躍できる可能性もあるわけです。ですから、選手のみなさんは、ドーピングでなくても、不適切な医薬品とサプリメントの使用は、ドーピングと同様に対策をする必要があります。

貧血のアスリートには適切なサポートを
健常アスリートはもちろんのこと貧血のアスリートに対しての治療も、適切なサポートをする必要があります。日本陸上競技連盟は貧血の対処に以下の7か条を定めて、安易な鉄剤注射をやめるように注意喚起をしています。 (日本陸連「アスリートの貧血対処7か条」)

  1. 食事で適切に鉄分を摂取
  2. 鉄分の摂りすぎに注意
  3. 定期的な血液検査で状態を確認
  4. 疲れやすい、動けないなどの症状は医師に相談
  5. 貧血の治療は医師と共に
  6. 治療とともに原因を検索
  7. 安易な鉄剤注射は体調悪化の元

重症の貧血治療に鉄剤注射を使用することもありますが、過剰な使用をすると鉄中毒の副作用を起こしやすく、アナフィラキシー・ショックに繋がる危険性もあることから鉄剤注射の使用よりも内服薬や食事から摂取する方が望ましいでしょう。また、鉄剤の過剰摂取は内臓機能の低下を起こすため走れなくなるリスクもあります。鉄剤注射の使用により短期的な結果は出るかもしれないですが、短期的な使用でも鉄中毒の危険性はあります。選手関係者は、選手寿命も考慮した長期的な結果を考えて適切なサポートを選手にすることが必要です。そのため、不適切な鉄剤注射の使用はあってはならないことです。

今回は、ドーピング禁止物質ではない鉄剤について解説していきましたが、ドーピングの場合でも同じことが言えます。選手や選手の関係者がドーピングに関する知識が無知で、選手が指導者や医師に言われるがままに医薬品やサプリメントを使用すると、ドーピングによる資格停止処分だけでなく、禁止物質の副作用により選手寿命が短くなる可能性があります。ドーピングは禁止物質の使用だけでなく、使用を企てることも違反になります。ですから、選手は正しい知識を身につけるためにドーピングに関する専門家を活用しましょう。また、選手関係者も、選手が誤って禁止物質を使用しないために、ドーピングに関する専門家を活用してください。短期的な結果のためなら手段を選ばない環境ではなく、選手をドーピングや選手寿命を短くするリスクから守る環境を実現することが大切です。